
岸和田の外環状線沿いを上っていくと、ふいに視界へ飛び込んでくる青い建物がある。山を切りひらいてつくられた、ブルーベリーの観光農園だ。手がけるのは、渡邊農園の渡邊亮さん。前職は営業職で、農家の家に生まれたわけでもない。それでも就農から10年、たけのこに水なす、アボカド、そして今いちばん力を入れるブルーベリー狩りの農園へと、挑戦の幅を広げ続けてきた。そしてその歩みのかたわらには、いつもJAいずみのの営農指導員の姿があった。「やってみたい」を形にしてきた生産者と、それを静かに支える指導員。岸和田で生まれようとしている観光農園の物語を、訪ねた。
渡邊さんという人 ―「儲かるやん!」から始まった就農
渡邊さんが農業の世界に入ったのは2016年。それまでは営業の仕事をしていて、全国トップの新人賞をとったこともあるという、根っからの行動派だ。
きっかけは、学生時代にさかのぼる。中学の野球の先輩が営む農園でアルバイトをしていた渡邊さんは、その羽振りのよさにすっかり心をつかまれてしまった。「みんなバリ儲けてるな、これはめっちゃ儲かるんや、と思って」。サラリーマンを経て一区切りついたとき、その記憶が背中を押した。

ところが、現実はそう甘くなかった。「ほんまに貯金が減る減るで。準備金がこんなにいるとは思ってなくて、えらい目に合いました!」と笑う。道具すら揃わないなか、先輩から耕うん機を借り、3反ほどの畑で水なすからスタート。そこからたけのこ、白菜やキャベツといった冬野菜、さらには大阪では珍しいアボカドにまで手を広げた。アボカドは、知人のハウスで育つマンゴーを見て「これならアボカドもいけるんちゃうかな?」とひらめいたのが始まりで、2025年11月には朝日新聞にも取り上げられた。
気持ちが動いたら、迷わず動く。渡邊さんの農業は、いつもそうやって広がってきた。
ブルーベリー狩り農園という挑戦 ―「美味しいから、食べてほしい」
数ある作物のなかで、いま渡邊さんがもっとも力を注いでいるのがブルーベリーだ。

始まりは、2020年ごろから手がけたブルーベリーの苗木販売だった。ビニールハウスを借りられるという話が舞い込み、「やりますわ!」とその場で即決。育てるうちに気づいたのは、採れたてが本当に美味しいということだった。「これは普通に美味しいから、ブルーベリー狩りをどこかでやりたいな、と思ったのがきっかけです」と語る渡邊さん。
農園の準備には、およそ4年。もとは木や石、池まである山だった土地を、重機を入れて一から造成した。池を埋め、石を取り除き、地面をならす ――「その形にするまでの期間が、いちばん大変でした」と振り返る。
栽培するのは、ネルソンやピンクレモネードをはじめ、この農園だけでおよそ50種類。「これがいいから、と選んだわけじゃなくて、とりあえずみんなに食べ比べてもらいたいんです」。なかでもピンクレモネードは、熟すと青ではなくピンク色になる珍しい品種で、見た目のかわいらしさから観光農園でも人気が高い。

土づくりにもこだわりがある。ブルーベリーは酸性の土壌を好むため、畝の下には点滴チューブを張り巡らせ、決まった時間に水と肥料を自動で与える仕組みにした。「剪定のときだけは自分が入ります。それ以外は基本、機械にまかせています」。
農園が目指すのは、家族連れやカップルが気軽に楽しめる場所。摘み取りは午前・午後の二部制で、来園者には氷を入れたカップを手渡すのが渡邊さん流だ。「日光が当たると、ブルーベリーってぬるくなるんですよ。冷たいほうが絶対に美味しいから」。摘んだ実を氷で冷やしているあいだに、次はどの木にしようかと選んでもらう。カフェスペースも備え、朝採れのブルーベリーが味わえる。

苦労と、それを支えた存在 ― ここで「JA」が登場する
山の造成から品種選び、観光農園としての見せ方まで、渡邊さんはほとんどを手探りで進めてきた。新規就農で、しかも代々の農家でもない。当然、わからないことや一人では抱えきれない場面も多い。
「農地に一人でいると、本当に一人なんです。そんなときに、すぐ電話できる相手がいるのは、ほんまにありがたい」

その相手こそ、JAいずみのの営農指導員・義本さんだ。実は二人は、地元の先輩後輩。義本さんは渡邊さんより少し年下で、就農のころからの長い付き合いになる。渡邊さんが「行動」で前へ進み、義本さんが情報や方向性の面でそれを支える ―― そんな関係が、自然とできあがっていった。
営農指導員という仕事 ― 新しい農業を、現場で支える
そもそも、JAの営農指導員とは何をする人なのだろう。
農家にとっては身近な存在でも、一般にはあまり知られていない。担当エリアの生産者のもとを回り、栽培の相談に乗り、経営や資金、制度の活用について一緒に考える ―― いわば、農家のいちばん近くにいる伴走者だ。

義本さんは2016年にJAへ入り、希望していた営農の道へ進んだ。以来ずっと同じ地域を担当し、渡邊さんとも新規就農のころから関わってきた。渡邊さんが信頼を寄せるのは、義本さんが「必要な情報を、整理して届けてくれる」点だという。
「世の中には情報があふれていて、自分で全部探すのは大変なんです。そのなかから、本当に役立つものを選んで教えてくれる。それだけでも、すごく助かります」
たけのこや水なすといった従来の品目だけでなく、アボカドやブルーベリー狩りといった新しい挑戦にも、JAは相談相手として寄り添う。決して「あれをやれ、これをやれ」と前に出るのではなく、農家がやりたいことを後ろから支える。義本さんのスタンスは、終始そんな控えめなものだった。
二人三脚の記録 ― 渡邊さん × 義本さん
取材の終盤、二人に「お互いを一言で言うと?」とたずねてみた。
渡邊さんは少し考えて、こう答えた。「農業指導家の……インフルエンサー、ですかね?」。良い情報をいち早く見つけて届けてくれる、頼れる存在だという意味だ。

一方の義本さんは、渡邊さんをこう評する。「行動力があって、何でも前向きにやる農家さんだなと思います」。そして、「これからもどんどん規模を大きくしていってほしい。地域の農業を広げてくれる存在ですから」と期待を寄せた。
行動の人と、知恵の人。タイプの違う二人が、それぞれの強みを持ち寄って前へ進む。「持ちつ持たれつ、ですね」と渡邊さんが笑うと、義本さんも静かにうなずいた。
これから ― 観光農園の開園に向けて
渡邊農園のブルーベリー狩りは、いよいよ今シーズンの開園を迎える。

その先に渡邊さんが思い描くのは、もっと大きな景色だ。「ブルーベリー狩りをやって、近くでイチゴ狩りやミカン狩りもできたら。1年を通して楽しめる観光農園が、理想なんです」。岸和田の地に、季節ごとに人が集まる場所をつくる ―― 元営業職らしい、スケールの大きな夢である。
これから就農を考える人にとっても、渡邊さんの歩みは一つのヒントになるはずだ。代々の農家でなくても、「やってみたい」という気持ちと行動力、そして相談できる相手がいれば、道は拓ける。渡邊さんのかたわらにいつも義本さんがいたように、JAは新しく農業に挑む人を、現場で支えている。
摘みたての、ひんやり冷えたブルーベリーを片手に。岸和田の山あいに生まれた小さな観光農園を、ぜひ一度たずねてみてほしい。
農園情報・関連リンク
渡邊農園 / KISHIWADA BLUEBERRY Park(岸和田市)
ブルーベリー狩り:午前/午後の二部制・カフェスペースあり
▶ ブルーベリーパーク公式サイト:https://kishiwada-blueberry-park.com/
▶ Instagram:@senshu_blueberry
▶ JAいずみの 公式サイト:https://www.ja-izumino.or.jp
▶ おおさかもん(大阪産)生産者ページ:https://osaka-mon.org/producer/1307
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