JA大阪中河内の第2期農業塾で学び、新規就農した山野さん。八尾市の静かな住宅街の中、多くの種類の作物を育てている圃場(ほじょう)にお伺いしてお話を聞きました。
プロフィール>山野幸一さん
幸えもん株式会社取締役。八尾市の兼業農家で育ち、スーパーマーケットチェーンに勤務後、就農。少量多品目で都市型農業を展開中。
■就農2年目、多彩な品種の野菜を栽培
周囲をぐるりと囲むように住宅が立ち並ぶ圃場(ほじょう)で、米と季節ごとの野菜を作っているのが新規就農して2年目の山野さんです。
ご夫婦で手入れされ、きれいに整えられた圃場(ほじょう)。取材日の10月中旬は端境期(はざかいき)でトウガンやバターナッツカボチャなどが少し残った状態。少量多品目栽培をしているという山野さんに栽培品目を聞いてみると、「じゃがいもはキタアカリ、メークイン、ミニトマトはキャロルパッション、ナスは黒福、トウモロコシはゴールドラッシュ…」と次々と品種名が出てきて、その多彩さに驚かされます。少し離れた駐車場の脇にもう一つの圃場(ほじょう)があり、そちらではキクイモ、落花生などが植えられ、さらに自宅の敷地内では苗を管理しています。
夏から秋にはキュウリ、ミニトマト、バジル、秋から冬にはスイスチャード、バジル、ルッコラ、パクチー、稲刈りが終わって圃場(ほじょう)が空いたところにブロッコリーや菜の花など、1年を通じて栽培計画を立てて畑の管理を行っています。
■農業のスタートはJAの「農業塾」
「子どものころに比べると周囲の環境は大きく変わりましたが、野菜の美味しさは忘れられないし、その魅力はよく知っています」。そう話す山野さんは八尾市の兼業農家で育ちました。学生時代には天満市場でアルバイトをし、自然と野菜に関する知識も身についたと振り返ります。
大学卒業後は、衣食住を扱う大手スーパーチェーンに就職し、食部門で長く農産物担当として活躍。国内各地の赴任地では、市場や農家とのやりとりの中で野菜に対する生産者の意識や消費者の動向などにも触れてきました。
兼ねてから農業に関心があった山野さんは早期退職募集があったタイミングで新規就農を念頭に離職を決意。退職後、JAに相談してJA大阪中河内農業塾2期生募集を知り、入塾して基礎から農業を学びました。
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■「農業塾」で学んだことを活かして
「農業塾では営農方法や農薬の知識など、様々なことを勉強しましたね。座学はもちろん、実地で体験することも多く、月2回の水やり当番ではお土産に野菜をもらったり(笑)。塾生同士の交流も有意義で、同窓会があればいいなと思うくらいとてもいい塾でした」。
JA大阪中河内では、直売所「畑のつづき 八尾店」を運営しており、新規就農者の販路として重要な役割を果たしています。加えて、山野さんは元職場であるスーパーの地場産野菜コーナーにも納品しており、そこでは野菜を並べながら消費者と直接会話する機会があります。
朝採りしてパック詰めしたものを朝5時にスーパーに納品しているという山野さんは、青ネギ、枝豆、春菊などのプロである先輩農家さんに交じって、個性ある野菜で勝負。「品種、収穫日、生産者名がわかるようにして並べれば、お客さんの興味や安心につながり、手にとってくれます。直接、お客さんの反応を見られるのは、モチベーションに繋がりますね」と、新規就農2年目の手応えを感じている様子です。
■新規就農で苦労したこと
「実家が兼業農家だったものの、父のリタイア後に農機具を処分していたので、まずは必要な機械を揃えるための費用が大変でしたね」。初期費用を抑えるために小規模農家向けにJAが行っている農機具レンタルを活用した山野さん。機械を借りた時、作業効率が上がって他のことに時間を使うことができ、その有益さを実感したと話します。
また、栽培計画の作成にも苦労の一つ。「出荷時期の違いによる相場なども考慮しながら高い収益を目指し、品目や収穫量を考えた畑づくりに取り組んでいますが、作物によって最適な場所や栽培期間の違いなど回転率をあげるために、パズルを埋めるように計画を立てるのが難しい」と就農3年目に向けて試行錯誤を続けている。
さらには、都市型農業の特性として、近隣の方とのコミュニケーションも重要です。作物を目当てに寄って来る害獣・害虫や収穫時に出るゴミの処分にも注意を払って作業にあたる必要があります。
■新規就農を目指す人へメッセージ
「すぐには収益につながらないので、自己資金の準備は入念に計画したほうがいいですね。これは農業塾で教わったことなのですが、農業は一人でがんばろうとせず、周囲の理解を得て家族や友人に協力してもらうことも大事です。そして、収穫直前の台風や鳥害など予想外のことは起きるものと想定しておくこと。今日したいと思ったことができなくても臨機応変に対応するおおらかさも必要でしょう」。
新規就農して早速、とうもろこし40本をイタチに食べられるという“予想外”の出来事に直面し、農業塾で習ったばかりの防護網の張り方を実践したという山野さん。思い通りにならないところも農業の醍醐味だと捉えるのも重要なスキルです。「農業は1年ごとに学びがあります」という言葉に実感がこもっています。
◆美味しいものを届けたい!
「とってすぐのクワイは栗のようで美味しいんですよ。とうもろこしも採れ立てで枝付きだと美味しさが変わります」と、かつて自分が感じた野菜の魅力を伝えることの喜びを味わいつつ、2年目の農業に取り組んでいる山野さん。農業塾でできた塾生やJA職員とのつながりを継続し、JAの紹介で農地を借りて栽培面積を増やす予定とのこと。圃場(ほじょう)の日当たり具合、土壌環境など、様々な情報をインプットした上で、さらにパズルの難度があがりそうです。
また、栽培だけでなく、売り場で目に留めてもらうためのパッケージやポップの付け方、束ねるテープの巻き方など、まだまだ可能性は広がります!スーパー勤務の経験を最大限に活かして、自分なりの農業スタイルの確立を目指します。
「米を食べなかったご近所のお知り合いの2歳の子どもが、ウチの天日干しのごはんをパクパク食べてから、家でも食べるようになったんですよ。」うれしそうにそう語る山野さんは、美味しい作物を届けることを喜びとして、奥様と二人三脚の農業に取り組んでいきます。