伝統野菜で楽しむ「食育」~歴史や物語を感じる心へ
「食育」という言葉もずいぶん一般化し、育児や学校教育では、スタンダードな考え方になってきました。子どもたちの健やかな成長のために、身につけてあげたい「食」に関する知識や心構えは、本当にたくさんあります。
そんななかで、ぜひ知ってもらいたいのが「伝統野菜」の存在。
子どもたちと一緒に「伝統野菜」について考えてみれば、日本の農業・食事と健康・和食の文化・日本地理や歴史など、いろいろなことが一度に学べるでしょう。そして、これらの知識を通して、おいしく・賢く・健康に・心豊かになってほしいものです。
そこで今回は、「伝統野菜」で楽しむ「食育」についてご紹介します。
野菜を選ぶ目を育てる~「伝統野菜」は栄養価が高いって本当?
まず、野菜に「一般の野菜」と「伝統野菜」があると知るだけでも子どもたちには驚きではないでしょうか。さらには、同じ種類の野菜でも栄養価に差があると聞くと、「どうしてだろう?」とちょっと気になりますよね。
伝統野菜は、他の一般的な野菜に比べると栄養価が高いものが多いといわれています。これは、その土地でのいろいろな環境の変化にしっかりと順応しながら生き残ってきた伝統野菜ならではの特徴。野菜は、過酷な環境で育てられると生命力が上がり、よりたくましく生きようとするため、内側に栄養をため込むようになっているのだそうです。
例えば、金沢の伝統野菜「加賀野菜」は抗酸化力の高いポリフェノール系が豊富(「石川県農業総合研究センター」調べ)、京都の「京野菜」はビタミンやミネラルが豊富(「京都府保健環境研究所」調べ)だという調査結果があります。
また、なにわの伝統野菜である、田辺大根・勝間南瓜・天王寺蕪(てんのうじかぶら)などには、ビタミンやミネラル、食物繊維がたっぷり含まれています。
一口にネギ・大根・カボチャ・ナスと言っても、地域ごとに品種が異なれば、見た目や味・用途・栄養価も異なります。そんな地域ごとの野菜の違いを子どもたちと一緒に楽しみながら、知識を取り入れ、野菜を選ぶ目や味覚、嗅覚(きゅうかく)の感性を磨くことが大切ですね。
「伝統野菜」から日本の歴史や地理を知り、社会性を育もう
その土地の土壌や気候、風土を生かして作られた地場野菜である「伝統野菜」。北海道から沖縄まで、その土地特有の伝統野菜がたくさんあるにもかかわらず、多くの人は他府県の伝統野菜を知らないものです。
その原因は、「高度経済成長期」。この時期は都市へ大量の野菜を送る必要があり、また流通システム的にも均一のサイズが求められました。ですが伝統野菜は安定供給が難しく、大きさも均一に作りにくく、時代のニーズに合わなかったため、次第に大消費地には届かなくなっていったのです。しかし、バブル期を経た現代、「本物志向」「食の安全性」が求められるようになり、今また「伝統野菜」の存在が注目されるようになってきました。
子どもたちと一緒に、このような「伝統野菜」を話題にすると、日本の歴史・各地の食文化・野菜の流通について知るようになり、社会性や感謝の気持ちが育まれるきっかけになるでしょう。
知れば食事がもっと楽しく!「大阪の伝統野菜」
大阪にも「伝統野菜」の品種がたくさんあります。最近は、「難波葱(なんばねぎ)」が認定されました。大阪市難波周辺で江戸時代からさかんに栽培されていたことから「難波葱」と呼ばれます。かも肉とねぎが入ったうどんを「かもなんば」と呼びますが、これは「難波葱」に由来している、とのこと。
また、お漬け物で有名な「天王寺蕪(てんのうじかぶら)」は日本最古の和種蕪。歴史あるこの天王寺蕪を、大阪生まれの俳人与謝蕪村は、「名物や蕪の中の天王寺」と俳句に詠みました。江戸時代には全国的にも有名で、そのころからとても美味しかったのでしょう。
食事のとき、子どもたちとこのような伝統野菜にまつわるおしゃべりをしながら想像力を働かせると、野菜を見る目も変わるはず。野菜の歴史や文化に触れながら食事を楽しめる「伝統野菜」は、まさに食育にうってつけです。
多様性や和の食文化、「食」の本質を伝える食育に「伝統野菜」を取り入れる意義は高いのではないでしょうか。まずは、地元の伝統野菜から食べ比べてみてはいかがですか?
参考: