大阪モノレール彩都西駅(さいとにしえき)から車で約20分。丹波高地、北摂山系にあたる竜王山の麓に「茨木花木センター」がある。代表の小阪誠史さん(56)は、標高450mに位置する茨木市上音羽(かみおとわ)町で花を育てて37年。訪れた日には色とりどりの花が咲いていた。
厳しく育てると、美しく咲く
茨木花木センターではパンジー、ビオラ、シロタエギク、ペチュニアのほか、年間に約25種類の花壇苗を栽培。出荷先は市場を中心に、服部緑地公園や大仙公園にまで広がっている。
「僕たちの育てる花壇苗は、植えられた場所で美しく咲くことが一番大事なんです」と誠史さん。丈夫な根を張るために必要な土の配合や水やりに細心の注意を払うが、できるだけ肥料や農薬は使用しない。あえて厳しく育てることで、植物が本来持っている生命力を最大限に引き出してきた。
そうして育った花壇苗の軸はどれも立派なものばかり。どのような環境でも日持ちが良く美しく咲くために、多くの人の目に触れる公共施設にも出荷が可能となるという。
父と大将、ふたりの師匠
実家は植木農家だった。大学卒業とともに就農を予定していたが、父が1980年代初期に需要が高まっていた花卉栽培への転向を決意。卒業まもなくして、誠史さんは愛知県安城市の生産法人で研修生活を送ることになった。
「水やりだけでも5年以上。自分の思い通りに育てられるまで、花は10年掛かる」。この言葉は、地元で名人と称された研修先の大将の教え。父も知らない花卉栽培の基礎を習得するため、休みなく農作業に励んだ。2年間の修業を経て帰郷。親子で花卉生産を開始した。
取材に訪れた日は1月下旬。かすかに雪が舞っていた。寒い季節になると、小学生の頃まだ植木農家だった父の農作業を、かじかむ手を我慢しながら手伝った思い出が蘇るという。
「自然との向き合い方は父から。花との接し方は大将から教えてもらいました」。ふと微笑む表情から、ふたりの師匠を敬愛する気持ちがじんわり伝わってきた。
花を身近に、楽しんで欲しい
誠史さんが主に取り組むのは、立体花壇。これは高さや奥行きを生かした園芸技法で、商業施設や広場など空間を演出する場面に多用されている。
きっかけは1990年、鶴見緑地公園で開催された「国際花と緑の博覧会(花の万博)」。約半年の会期中に2300万人以上が来場し、当時、世界一の大国際博といわれた。花の万博で立体花壇の制作展示に初めて挑戦。現在は関西空港の到着ロビーを彩る「Welcome Flower」を手掛ける腕前である。花の生産者が自ら花を彩ることで、新たな魅力を発信してきた。
今後の目標は、栽培施設のオープンハウス化。「野菜の見分け方や食べ方を提案する生産者が増えているように、花も栽培だけに留まらず、その先の楽しみ方まで提案していきたいんです。花をもっと気軽に日常生活へ取り入れてもらえるよう、その人の好みに合わせた花壇苗の提案や選び方などを直接伝えていきたい」と夢は尽きない。