「鶴橋へ行く」は大阪では「焼肉を食べに行く」である。こう述べるのは当「やるやん!大阪農業」サイト編集長で、独自の視点で大阪の街のうまいもんを描いてきた江弘毅氏。その江さんも絶賛する鶴橋の老舗焼肉店「鶴一」へ、長年サンチュを出荷している農園がある。
園主は西村庄司さん(58)。阪急京都線 南茨木駅から徒歩5分。線路沿いに佇む、茨木市奈良町の水耕ハウスで、弟と一緒にサンチュを周年栽培している。
古来より食されてきた、ちしゃ
「サンチュ」といえば、焼肉の定番。今やこの呼び名に馴染みがあるが、実は韓国名。日本名は「ちしゃ」といい、奈良時代にはすでに中国から伝わり、広く栽培されていたという。
戦後のレタス人気に一時は需要を奪われ姿を消したものの、焼肉などの韓国料理が普及したことで生産が復活。日本で再び注目される野菜となった。
古来には「おひたしの野菜」として食されたものが「焼肉を巻いて食べる野菜」へ。名前も「ちしゃ」から「サンチュ」へと、食べ方とともに変化を遂げたアジアをめぐる野菜である。
鶴橋へ、サンチュを届けて20年
西村農園の出荷先は、もちろん多くが焼肉店。鶴橋を代表する「鶴一」や隣の上本町に本店を構える「明月館」へサンチュを出荷して20年以上。10年程前からは配達まで行い、茨木市からお店まで、往復1時間半の道のりをほぼ毎日通う。
栽培しながら常に考えているのは、焼肉を楽しむお客さんの気持ち。「サンチュを食べにわざわざ焼肉屋へ行く人はおらんと思うけど、せっかくの焼肉をもっと美味しく食べて欲しいやん」。
自身も食べ歩くことが好きだ、と話す庄司さん。焼肉の楽しみはもちろん肉を食べに行く楽しみにある。庄司さんの場合は、タレもキムチも、巻いて食べる野菜も含めて楽しむことが焼肉なんだと熱く語る。
鮮度を保つ、朝採り、手摘み
ハウスの中には青々と茂ったサンチュがびっしり。鶴橋の派手やかな町並みにも負けないピンクのジャンパーとのコントラストで、葉の緑がさらに色鮮やかに見えた。
西村農園のサンチュは、鮮度がよくて食べ応えがあると定評がある。ひとつの飲食店と長年取引があるのは何よりの証拠。秘訣は朝採りと手摘みにある。気温が上がる朝8時まで、葉がピンと新鮮なうちに収穫を行なう。一枚一枚、丁寧に摘みとることで鮮度が長持ちするという。
「親指と人差し指だけで、そっと摘むようにしてます。なるべく少ない指で柔らかく根元を摘み取ると、鮮度が長持ちするように感じるんですわ」と庄司さん。「他にも良い方法は色々あるとは思うけど」と前置きしながらも、味と鮮度には確かな自信を持っている。