第二京阪の枚方学研を降りて北東に車で約5分。農園「杉・五兵衛」は、大阪のベッドタウン枚方市にある。
「おぅ。来たか」
出迎えてくれたのは、島五兵衛さん。当年とって数えで70歳。眼光鋭く、迫力があって、かっこいい。数百年以上、続いてきた農園の園主である。
到着したのはちょうどお昼時。
「うちの農園のことを知ってもらうには、まずは食べてもらわんとな」
築数百年の代官屋敷と京都二条の酒蔵を移築してつくった本館は、農園で採れた旬の農産物が味わえるレストランと直売所だ。入り口には、グミとイチゴが籠に盛られていて、「ようこそ、どうぞおつまみ下さい」の札がおいてある。
窓から見える農園の風景は、まるで日本の原風景。日本昔話にでてくるような里山そのもの。里山はヒトが手を加えてこしらえてきた。お米が育つ田んぼ、野菜が育つ畑、四季折々に実る果樹が植わっていて、ロバがいてニワトリがいて、ヤギやウサギがいる。農園の草やレストランの野菜クズは家畜たちのエサとなり、家畜の排泄物は堆肥として再び農地に還る。ここでは、何一つ無駄なものがない自然循環農業が営まれている。
枚方にこんな場所があるなんて、誰が想像できるだろうか。
「俺はこの景色が好きや。都会の中の里山農業ってとこやな」
花菖蒲が咲き誇る池ではカルガモの親子が泳ぎ、池の中にある石には、取材当日、鶴の仲間のオオバンという野鳥が卵を抱いて鎮座していた。
「今日、取材に来てくれている間に産まれてくれたらええな」と五兵衛さん。この農園には、生命があふれている。
食事のお膳は農園の縮図
五兵衛さんのお連れ合いの美砂子さんが、ランチを運んできてくれた。
タラの芽、破竹、イタドリ、蕨、グミ、ズッキーニ、ソラマメ、エンドウマメ、新タマネギ…。農園の食材が、天ぷらや和え物、おやきなどに生まれ変わって木製の膳にのってきた。いま、農園で何が採れているかが一目瞭然でわかるお膳は、まさに農園の縮図である。
フェイジョアの花を食べたのは生まれて初めて。ガクだけ残して花びらごとパクっと一口で。ほんのり甘い。もう美味しいとか美味しくないとかの次元ではない。
「杉・五兵衛」のお食事をいただくと、自分自身もこの農園が織りなす自然循環の一部になったような不思議な気持ちになる。
おおよそ甲子園球場2つ分という広大な農園で、1年間にどれくらいの収穫物があるのか、五兵衛さんに訊いてみた。
「わからん。数えたことない」
帰り際に、美砂子さんから手渡されたのは、季節毎の農園で採れるお品書き。初春、春、新緑、初夏、夏、秋、冬の合計7枚に達筆な文字で書かれた食材を数えると、優に100品目は超えていた。リピーターが何度でも農園を訪れたくなる理由がわかる。
「薬をかけずに愛情をかけました」という添え書きも小粋。