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農で、個を表現する。やりたいからやる、歌う農人。

古川雅英さん

( ふるかわまさひで / 古川農園 )

  • 南河内
  • JA大阪南
  • 大阪なす
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ハウスは6反、効率よく運営

畑に着いたとたん、山が近いと感じる。自然に囲まれた富田林市龍泉に、古川雅英さんの農園がある。

大阪なすのハウスは約3反半*、キュウリが約2反半。ハウスは点在するのではなく、一か所にまとまっている。「大阪なすのハウスが、これだけまとまってあるのは大阪でも少ないんですよ。だから少ない人数で、効率よく収穫できるんです」と雅英さん。

* 1反(たん)は、広さの単位で300坪。約10アール、100メートル四方の土地を指す。

27歳、一人暮らし、責任感の芽ばえ

大学卒業後、実家の畑を継ぐ。「元々、農業は嫌いじゃなかったんですが」就農の経緯をうかがった。「大学を出てそのまま農家になったら親と一緒に住むことになります。畑と家を往復する暮らしが嫌だったんです」。雅英さんは、続ける「農家の先輩を見ていると、親と別に住んでる人もいるんだ、とわかってから考えが変わってきました」。

やらされてやる農業から、やりたいからやる農業へ

そして27歳になったとき、念願の一人暮らしを始める。農家として、自立の第一歩だった。それまでは、両親から固定給をもらっていたが、地元の量販店に卸す分だけは自分の儲けにしていいと言われた。この頃からだった。人にやらされている農業から、自分がやりたいからやる農業へ、意識が変化していく。責任感も生まれはじめた。

家賃を払える経済力をつけないといけないし、サラリーマン並みの給料は稼がなければならない。今後の役に立つかもしれないと、野菜ソムリエの資格も取得したという。

現在は両親から古川農園の事業を継承した。雅英さんは代表として「自分のやりたい農業」を進める。今、一番力を入れているのは、大阪なす。理由は、他の野菜より、需要の広がりを感じているからだという。

大阪なすは、南河内地域で60年以上に渡って栽培されてきた。「なにわ特産品 *」のひとつでもある。実に種が入らないことで知られ、ボリュームはあるが決して大味ではない。調理法も多い。毎日、食卓に並んでほしい野菜だ。

* なにわ特産品とは、大阪府が選定する農産物。府内でまとまった生産量があり、独自の栽培技術で生産されている21品目を指す。

雅英さんは、そのためできるだけ長期間、出荷したいと考えている。無加温の半促成栽培で生産し、3月末から5月、6月をピークに7月中旬まで収穫している。夢は、一年中の出荷、大阪なすばかり作る暮らし。とにかく、大阪なすが好きなのだ。

独立心ある従業員は、仕事もできる

どこの農家も人手不足で悩んでいるが、ここ古川農園では今まで「勝手に辞めた」従業員はいないそうだ。従業員の採用にあたり、雅英さんには基準がある。それは将来、農家として独立したいという思いがあること。「独立心を持っている人の方が積極的で、結果、仕事がよくできるんです」とのことだが、従業員が辞めない理由は、雅英さんの人柄にもありそうだ。

やさしさと人の良さで、愛される

今年4月に採用された29歳の船崎さんと23歳の市来さん。2人に「社長はどうですか?」と聞いてみた。すると、にこにこの笑顔で「めちゃくちゃ、やさしいっす」と口を揃える。2人とも農業大学校時代、古川農園での研修を体験している。

「研修は、他にも行ったけど、ここが一番人が良さそうだったから」と、4月からの従業員募集に迷わず応募したそうだ。「僕は人に合わせて、仕事の任せ方を変えているんですよ」と雅英さん。「何を作りたいかによってタイプも違うんです」。

歌う農人、ハウスで一曲

取材中のこと、歌を披露してもらうことになった。雅英さん作詞、作曲の一曲である。雅英さんは、ギターを弾く。雅英さんは、歌う農人(のうと)なのだ。農人とは雅英さんの造語で、個性を生かして農業をする人を指す。

スカのリズムで、収穫の歌

歌のタイトルは「大阪ナスビ・スカ」。♪ やってきましたこの季節、朝から晩までナスビだぜ、おいしいナスビができました~。ポップで、踊りたくなるメロディー。そして雅英さんの声の甘いこと。大阪ナスビ(大阪なす)の収穫の喜びを、スカ(ジャマイカ発祥、2拍めと4拍めを強調する)のリズムで歌う。

雅英さんは高校、大学とバンドをやっていた。それを知る農家友達に「大阪なすの歌でも作ってみたら」と勧められたのが、曲作りのきっかけ。学生時代に作っていたのは、いわゆる普通の失恋ソング。今はずらり、野菜の歌「野菜大好き」、「大阪産(もん)のうた」、トマトの歌「真っ赤なトマト~愛を込めてver.」。まさに、歌う農人だ。

雅英さんの演奏が始まると「社長、カッコいいス」と言いながら、社員が携帯で撮影を始めた。今まで見たことのない一面に触れ、新人たちはますます社長が好きになったようだ。

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