大阪都市農業情報ポータルサイト 大阪で農業っておもろいやん!

トップ > お知らせ・ニュース > 夏場の高温化を乗り越えるために!農家のための不作対策ガイド

お知らせ・ニュース記事

LINEで送る
Pocket

昨年に引き続き、暑い夏が続く昨今。2023年10月31日に農林水産省が発表した9月末時点の2023年産1等米の全国平均比率は59.6%で、過去最低の調査結果となっていました。下落の要因として夏の記録的猛暑の影響で高温障害が発生したことが主な原因とされています。そんな中、2024年も40度に迫る勢いの地域も多く大変暑い時期を皆さま過ごされたことだと思います。今回はこのようなお米以外の作物への影響も含めて、高温時の対策についてご紹介したいと思います。

 

■夏場の高温障害!その影響と課題とは?

高温による影響は多岐にわたります。まずは高温によって作物がどのような影響を受けるかを見ていきましょう。

 

1.作物の各種能力低下
高温は作物の光合成能力を低下させます。光合成は作物が成長するためのエネルギーを生成する流れですが、高温環境では光合成が効率的に行われなくなるとされています。葉の気孔が閉じて二酸化炭素の取り込みが減少し、光合成速度の低下に繋がります。他にも作物の呼吸量が増え、エネルギー消耗の増加に繋がり生育が抑制されるといった影響や代謝プロセスにも影響が出ると言われています。

作物ごとで影響が異なります。お米の場合は種子ができない不稔が発生したり、野菜の場合は土壌乾燥の影響で発芽不良や生育遅延などに繋がる、病害や害虫の発生が増えるなど、農家にとって対応範囲が増える課題発生に繋がります。

 

2.地球温暖化による影響の増大
地球温暖化により、北極や南極の氷が溶け、海面が上昇しているとされています。海面上昇は洪水や高潮のリスクが高まりインフラへの影響が出るケースもあります。また、異常気象を引き起こし、大雨や洪水、干ばつや熱波などが頻発するとされています。実際に能勢町では大雨の影響により川の氾濫が起きたり、河内方面では雹(ひょう)が降るなど、異常気象に直面している時がありました。また、台風の大型化で暴風や大雨に伴う、土砂災害などの二次災害も深刻化しています。

 

従来の伝統的な農法だけでは乗り切れない可能性が出てくるほど、高温化の影響は厳しく、自然と共に動く農業従事者にとって深刻な課題となっています。

 

■適切な水資源の管理・活用で作物の健康を維持

冒頭では高温化による影響や課題についてお話をしました。ここからは各種対策について触れていきたいと思います。まずは灌漑(かんがい)管理についてみていきましょう。灌漑の基本は安定した水源の確保です。河川、地下水、湖などから水を引き、必要に応じてダムやため池に貯水します。これにより、干ばつ時や雨の少ない季節でも安定した給水が可能となります。灌漑方式にはいくつかの種類があり、それぞれメリットとデメリットを持っています。以下は主な灌漑方式です。

 

土壌表面灌漑 水を直接土壌表面に流し込む方式で、地中に浸透させる効果をもたらします。効率面は高くないですが、簡便で広く利用されています。
噴霧灌漑 スプリンクラーを使って水を空中から散布する方式です。効率が高く、風害や高温、病害虫防止にも効果が期待できるとされています。
滴下灌漑 パイプやホースから微細な滴で水を供給する方式です。非常に効率が高く、水のムダが少ないとされています。
地下灌漑 地下にパイプを埋め込み、水を供給する方式です。蒸発による水分損失が少なく効率的で水資源の有効利用を促進し、水不足地域でも安定した農業生産実現に貢献する方式と言えます。その分、初期投資や定期的なメンテナンスを必要とします。

 

より水資源を効率的に利用しながら作物の生育を促進する手法としてドリップ灌漑の活用もされています。ドリップ灌漑は根本に直接水を供給する方式で、水の蒸発や流出が少なく、従来の灌漑方式よりも水使用量の大幅削減に貢献するとされています。適用効率が高く、土壌面蒸発量を減らす効果に期待でき、水資源の有効利用に貢献しています。また、水分が均一に供給されるため、作物の根系が健全に発達し、生育が促進されます。塩害リスクが高い地域でも、塩分濃度を押さえた灌漑が可能となり、作物へのストレスを軽減する効果も得られるとされています。

 

■土壌管理の重要性と健康を保つヒント

太陽の恵みは農業において非常に重要な要素です。作物の生育への影響はもちろん、太陽熱を利用した土壌消毒などにも活用されています。一方で、土壌が高温にさらされ続けると干ばつや水資源の不足などの課題に繋がります。この章では、健全な土壌を維持する方法をいくつか解説していきます。

1. マルチングによる蒸発抑制や保湿対策
土壌表面をマルチング材で覆うことで地温を安定させ、水分蒸発を防ぐ手法です。作物の根が安定した環境で成長する効果や雑草の発芽と成長抑制に期待できます。降雨や灌漑時に土の跳ね返りを防ぎ、病原菌が植物に付着するリスク軽減や、肥料が流れ出るのを防ぎ、土壌中の栄養素を保持する効果にも期待できるとされています。

 

2. 有機肥料の活用で長期的な栄養素供給
自然由来の材料から作られる有機肥料。土壌に入れるとゆっくりと分解されるため、長期間にわたり栄養素を供給するとされています。また、有機物が分解される過程で微生物活動が活発になり、土壌構造が改善されます。これにより保水性や通気性向上に期待できます。

 

土壌の健康を保つための取り組みは多く、連作障害を避けるための輪作や土壌pHを定期的に測定し、必要に応じて石灰や硫酸などの調整を行う。コンポストを利用し、有機肥料を作成するなど、様々な方法や技術を組み合わせて、健康的で持続可能な農業環境の維持を行っている農家さんが多くございます。

 

■高温化で増加する病害虫の対策について

気温が上昇すると虫の大量発生や各種病気が起きる原因にも繋がります。健康な作物を育てるために重要な対策の一つである病害虫の抑制方法についても触れていきます。

 

病害虫対策は大きく分けて4種類あります。耕種的防除、物理的防除、生物的防除、化学的防除です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

 

1. 耕種的防除:
これは栽培方法の工夫による対策です。病害虫に強い品種を選ぶ、健全な苗を目利きして選定する、バランスの取れた肥料を適切に施すなどが含まれます。

2. 物理的防除:
環境を物理的に操作して病害虫を防ぐ方法です。防護ネットの設置や前述のマルチングの実施、シルバーテープなどの光反射材の使用などが挙げられます。

3. 生物的防除:
自然の生態系を利用した対策です。テントウムシやカマキリなど病害虫の天敵となる昆虫を利用した駆除や、マリーゴールド・ミントなど特定の植物と一緒に栽培することで相乗効果を狙う方法が含まれます。

4. 化学的防除:
農薬を使用する方法です。ただし、農薬使用基準を厳守し、適切に散布することが重要です。

 

土地柄や作物に合わせて、これら4種の対策から最適な防除法を選ぶことで、病害虫の被害を効果的に抑えることができます。高温化する時期は急な虫の大量発生などが起こる可能性もあるため、どの対策が何に効果があるのか、どの作物に対して有効な手法かといった情報を蓄えていく必要があります。

 

■全体のまとめ

本記事では、高温化が農業に及ぼす影響とその対策について解説してきました。主なポイントは以下の通りです。

 

・高温化による作物への影響:光合成能力の低下、生育抑制、不稔の発生など
・適切な水資源管理:様々な灌漑方法の活用と効率的な水利用
・土壌管理の重要性:マルチングや有機肥料の活用による健全な土壌維持
・病害虫対策:耕種的、物理的、生物的、化学的手法を組み合わせた総合的アプローチ

 

これらの対策を適切に組み合わせることで、高温化による悪影響を軽減し、持続可能な農業生産を維持することが可能となります。気候変動が進む中、農業従事者の皆様には、これらの知識を活用し、地域や作物に適した対策を講じていくことが求められています。

 

本記事が、高温化に対する理解を深め、効果的な対策を講じるための一助となれば幸いです。今後も変化する環境に適応し、持続可能な農業を実現するため、新たな技術や方法に注目し、継続的な学習と実践を心がけましょう。


[参考サイト一覧]

農林水産省|令和5年度産の農産物検査結果(速報値)

https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/attach/pdf/index-31.pdf

農林水産省|野菜の生育状況及び価格見通し(令和5年10月)について

https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/engei/230929.html

気象庁|令和5年梅雨期の大雨と7月後半以降の顕著な高温と特徴の要因について

https://www.jma.go.jp/jma/press/2308/28a/kentoukai20230828.pdf

農研機構|(研究成果) 水稲品種「にじのきらめき」の暑さ対策

https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/carc/153330.html

国際農研|植物の新たな干ばつストレス応答機構を発見

https://www.jircas.go.jp/ja/release/2023/press202314

 

LINEで送る
Pocket

スペシャルコンテンツ