最近、SDGsと言う言葉をよく耳にしませんか?テレビでも力をいれていて、なんとなくわかるけれど農業との関わりってどういうところにあるのかな、と思っている方も多いのではないでしょうか。
SDGs(エスディージーズ=持続可能な開発目標)とは、世界中の人々が平等で安全に生きることのできる社会を作るため、2030年までに達成する目標を掲げたもの。2015年9月に国連サミットで採択され、17のゴールと詳細な課題が169定められています。
世界中で取り組みが進められているSDGsの項目では、2番目の「飢餓をゼロに」をはじめとして、農業の分野では直接的、間接的に寄与できることが多いのです。従来通りの農業で十分に役割を果たしている部分もありますが、もう一歩、SDGsについての意識を持って行動することで、さらに未来の農業のカタチが見えてくるかもしれません。
今回、SDGsに直結する循環型農業に取り組んでいる羽曳野市のイチジク農家、ハッピーファームの吉川幸一郎さんにお話を伺いました。農業におけるSDGsへの取り組みがもたらす未来図を少し、共有してみませんか?
まずはSDGsについて予習しておきましょう
持続可能な開発目標17の項目
1.貧困をなくそう
2.飢餓をゼロに
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
7.エネルギーをみんなに。 そしてクリーンに
8.働きがいも経済成長も
9.産業と技術革新の基盤を作ろう
10.人や国の不平等をなくそう
11.住み続けられるまちづくりを
12.つくる責任、つかう責任
13.気候変動に具体的な対策を
14.海の豊かさを守ろう
15.陸の豊かさも守ろう
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう
公式サイトはこちら
いかがですか? 項目を見るだけでも農業に関わることってとても多いと思いませんか?海は関係ないだろう?と思われた方、いえいえ、田んぼの水は川へ、そして海へと流れて行くと考えれば、無関係ではありませんよね。
これ、実は今回お話を聞かせてもらった吉川さんに気付かせてもらったことなんです。
では、吉川さんの登場です!
「農で感動を、わかちあう」をコンセプトに掲げる吉川さんの農園『ハッピーファーム』は、世界遺産にも含まれる日本で2番目に大きい古墳、応神天皇陵が望める羽曳野市古市にあります。完熟イチジクと季節の野菜を生産している畑では、まだ実をつけていないのにイチジクの匂いがして不思議な感じがしました。
青空の下、風が吹き渡り、鳥の声も聞こえる畑で、お話を聞かせてくれた吉川さんは就農して2年の新人農家。プログラマーとして充実した仕事をする中で、農家になろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
「30代で独立を考えていました。プログラマーとして独立も考えたんですが、技術の移り変わりが早く、10年後、30年後の将来が見えなかったんです。仕事で農業に関わる案件があり、市場調査などをする中で産業として魅力に感じました」。農業もプログラマーと同じものづくりだと話す吉川さん。
「あと、食べることが好きだった!」と、これも大事な理由の一つだったようです。
そんな吉川さんが農業を始めるにあたって、柱として決めたことが「美味しさ」へのこだわりです。美味しいものを食べる人が笑顔になって、作る人も笑顔になる。そんな幸せの連鎖が生まれる農業を目指し、ハッピーファームという屋号にもその想いが込められています。
吉川さんが手がける循環型農業とは?
「作り続けられる環境を守るため」と、まさに持続可能な農業の実践を目指して栽培期間中は化学農薬不使用、循環型農業に取り組んでいる吉川さん。中でも、剪定後に捨てる枝を土壌改良材や堆肥に活用する循環型農業については、全国農業新聞でも取り上げられました。
「非農家の出身なので、まずは農業大学で学びました。ブドウ農家で研修していた時、毎年剪定した枝がトン単位で大量に出て、それを燃やして処分していたことを知り、なんとか有効に活用できないかと考えたのがきっかけでした」。
これが当たり前だと思えなかったのは、「農業に対して真っ白な状態だから発想できたのかも」と振り返ります。
そこで挑戦したのが、剪定後のブドウの枝とワインの搾りかすを活用した堆肥作り。運搬から完成までの管理など手間ひまがかかった堆肥ですが、ブドウ農家から無償提供してもらうので原価はゼロ。ハッピーファームの循環型農業の重要な柱です。
さらに、次なるチャレンジに着手した吉川さん。今度は、イチジクの剪定枝を無煙炭化器で炭にしてサツマイモ畑の土壌改良に活用する取り組みを始めました。ブドウもイチジクも羽曳野市内を代表する農産物であり、近隣で循環する農業の仕組みを構築中です。
「梅酒メーカーが廃棄する梅の実を牛のエサに混ぜることで、梅ビーフとしてブランディングしている畜産農家の取り組みを知って、非常に参考になりました。ブドウ、イチジク、サツマイモ、その次になにができるか。まだまだ広げていきたいですね」。
「小さな農家が手の届く範囲のSDGs」と位置付ける吉川さんですが、その取り組みだけでは終わりません。付加価値をつけてブランド力を高めること、つまり収益率アップという農業経営の視点もしっかり持って、果敢な挑戦を続けているのです。
新人農家の想いとは?
「環境に配慮し、美味しいものを作り続けられる農業を」。農業の世界に飛び込んだ時からの想いにブレはなく、品種の選抜、アミノ酸が含まれる有機肥料100%使用、収穫の時間帯などにこだわりをもって生産するなど、食べた人を笑顔にするための努力を惜しまない吉川さん。
「農業は大変なことも多いけど、部屋にこもってする仕事に比べてとても健康的に過ごせます。儲かりそうだと思っていたけど、現実は難しい(笑)。でも、お金だけで計れない面白さがあるのは事実です」。
就農1年目、初収穫を待つばかりのトマトの畑を竜巻が通過して全滅。自然を相手にする農業の厳しさの洗礼を受けた出来事がありました。
「いやもう、心がバキバキに折れましたね(笑)。でも、倒れたトマトを起こすのを仲間が手伝ってくれて本当に助かりました。窮状をインスタで発信したところ、残ったトマトを買ってくれる人もたくさんいて…。農業を通じて人とつながれる喜びも感じられる出来事でした」。
仲間とともに目指すもの
SDGsの観点も含め、農業を通じて社会の役に立つことを目指す吉川さんは、近隣の若手農家を中心に、月に1回ミーティングをしています。直近の作業スケジュールや取り組みの共有、施設や農機具の共用の検討など議題は豊富です。
「お酒抜き、ガチの会議ですよ(笑)。問題を共有し、助け合える仲間づくりは本当に重要です。お客さんを紹介しあったりするので販売先には困らないですね。逆に生産量を増やすことが必要だと感じています。目指す頂上まで、まだまだ2合目か3合目の地点ですね」。
認知度を上げること、生産量を増やすこと、クラウドファンディングへの挑戦、経営プランコンテストの応募、農家フェスなどのイベント、仲間とともに目標に向かって走る吉川さん。
「年に一度、3秒だけ桜をみてあとは楽しく過ごす花見の会があります(笑)」と、仲間との時間が充実していることを付け加えてくれました。
SDGsと農業の間にはクリエイティブが存在する
「SDGsにはたくさんの項目があって、農業はたくさん該当します。一見、関係のないように思える”海を守る”という項目も、田んぼの水が川に流れ、やがては海に届くと考えれば、農業にできることはある。いろんなアイデアで取り組めると考えています。
社会全体で循環できるようなアイデアが実現すれば農業も盛り上がって、かっこいい職業になると思うんです。後継者がいない現実があるけれど、とてもクリエイティブな仕事で魅力は尽きないですね」。
農家は存在自体がSDGs。鳥のさえずりを聞きながら汗を流す。決して甘くはないけど、豊かな暮らしが実現する仕事。
ストーリーのある農作物を届けて、買った人が笑顔になる、作った人も笑顔になる。そんな笑顔のサークルの中に、環境や食の問題が解決していくヒントを探していくことが、これからの農業の未来につながる。吉川さんのお話を聞いて、そんな明るい気持ちになりました。
まとめ
いかがでしたか? SDGs って農家にとってはとても身近な存在だということがおかわりいただけたでしょうか。脱サラして就農した農家さんのように、意識してみればできるこがたくさん見つかりそうです。
少し遠回りに感じるかもしれませんが、持続可能な農業に取り組み、実践することで先祖から受け継いできた大事な田畑を守ることができるのです。興味を持たれたら、一度JAなどに相談してみてはいかがでしょうか。
[取材ご協力先]
ハッピーファーム(HAPPYFARM)
吉川幸一郎さん
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