気温が徐々に上がりはじめるこの時期、農作業中の熱中症対策が重要になってきます。2024年4月24日から「熱中症警戒アラート」の運用がはじまりました。「暑さ指数」が33以上の地域に発表されます。初夏前でも熱中症は先の話ではない問題で、熱冷えや意識障がいなどの症状が現れた場合には命にかかわる危険もあります。今回は、カンタンにできる熱中症予防の方法を農家目線でお伝えしたいと思います。
■熱中症の症状と危険性
熱中症は、その症状の重さによってⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の3段階に分けられています。この分類は、患者に必要となる治療の内容や程度を判断するうえで重要な基準となっています。
Ⅰ度:現場での応急処置で対応できる軽症
・めまい、たちくらみがある
・筋肉のこむら返りがある(痛い)
・拭いても拭いても汗が出てくる
◎熱中症の自覚症状は…
「ズキンズキン」とする頭痛、めまい、吐き気、たちくらみ、けん怠感など
Ⅱ度:病院への搬送を必要とする中等症
・頭が「ガンガン」する(頭痛)
・吐き気がする・吐く
・体がだるい(けん怠感)
◎危険信号は…
暑い場所にいるのに全く汗をかかなくなった、皮ふが乾燥している、触るととても熱をもっている
Ⅲ度:入院して集中治療の必要性のある重症
・意識がない
・体がひきつける(けいれん)
・呼びかけに対し返事がおかしい
・まっすぐに歩けない・走れない
・体温が高い(体に触ると熱い)
◎危険信号は…
「意識がおかしい、自分で水分が取れない」という症状があれば、ためらわず救急車を呼びましょう。
このように、熱中症の程度が重くなるにつれ、適切な処置をすぐにとらないと危険な状況になる可能性が高くなります。初期症状にいち早く気づき、重症化する前に適切な対応をとることがなにより大切です。
■熱中症になりやすい環境条件や人
熱中症は、必ずしも気温が高い日に発症するわけではありません。気温が低い日でも、熱中症になるリスクが高まる条件が重なれば、熱中症を発症する可能性も高くなってしまいます。
・気温が高いとき
気温が25℃を超えると熱中症になる可能性が上がります。30℃を超えると、熱中症による死亡者数も増えるといわれています。気温が上がると、熱中症リスクも高まっていくため、気温の変化には気をつけるようにしましょう。
・湿度が高いとき
湿度が高い環境下では、気温が低くても熱中症に注意が必要です。湿度80%以上で気温25℃未満の条件下でも、汗が蒸発しにくくなるため熱中症のリスクは高まります。
・日差しが強いとき
晴れた日は、直射日光や地面から照り返しにより熱中症のリスクを高めます。照り返しは、コンクリートやアスファルトでは強く、芝生や土では弱い傾向があります。
・風が弱いとき
風が弱いと、汗が体についたままになり、蒸発しにくくなります。体温が下がらなくなり、体内に熱がこもりやすくなることで、熱中症のリスクが高まります。
・急に暑くなったとき
熱中症は夏だけでなく、気温の急上昇時や暑さ到来初期にも発生しがちです。体が暑さに慣れていない中で梅雨の晴れ間や、梅雨明け直後は特に注意しましょう。
・暑さ指数が高いとき
暑さ指数(WBGT)は、気温、湿度、輻射熱(ふくしゃねつ)の3要素を組み合わせた指標です。この指数が28度を超えると、熱中症の発生リスクが上がります。つまり、WBGTが28度を超えると、熱中症患者が増える恐れがあるので気をつけましょう。
また、熱中症になる人の中で、65歳以上の高齢者が約半数を占めています。これは、年齢をかさねるにつれ、体内の熱や水分バランスの変化に敏感さを失い、体の調整能力も低下してしまうからです。高齢者は暑さに弱いため、熱中症への警戒がより重要となります。
■農作業においての熱中症対策
では、熱中症対策として具体的に何をすればいいでしょうか。
・天気予報と体調管理
気温が28度を超える場合、無理のない範囲で野外作業をひかえる必要があります。天気予報だけでなく、時間ごとの気温の変化が分かるスマホアプリなどを活用すると、作業時間の調整がしやすくなります。
また、熱中症になるリスクを考えると、体調管理も大切な要素です。少しでも体に異変を感じたら無理せず休息をとりましょう。特にお酒を飲んだ翌日は、体内の水分バランスが乱れてる可能性が高いため、普段よりも注意が必要となります。
・作業時間を朝に前倒しする、昼休みを長めにとる
昼間の暑い時間帯はできるだけ避けましょう。朝日が昇ると同時に作業をはじめ、昼間はしっかり休息をとって、体調を整えるよう検討してみましょう。早起きすると、一日の作業が効率的に進むだけでなく、体もすっきりと気持ちよく感じます。暑い時間帯での作業が必要な時は、帽子をかぶり、作業時間を短縮するよう心がけましょう。
作業中は20分ごとに休憩して、水分補給をこまめにしましょう。涼しい場所で作業着を脱いで、体温をさげることがコツです。のどが渇いていなくても、20分ごとにコップ1〜2杯以上の水を飲むよう心がけましょう。また、足がつったり筋肉がけいれんした場合は、0.1~0.2%の食塩水(1Lの水に1~2gの食塩を溶かす)、スポーツドリンク、または塩分補給用のタブレットを摂取してみましょう。
・単独での作業を避ける
作業をする際には、できるだけ2人以上で行い、あらかじめ決めた時間ごとに声をかけあったり、お互いに確認しあうようにしましょう。
・ビニールハウスや畜舎にも注意
施設内でも、高温多湿な環境では熱中症のリスクが高まります。ビニールハウスや畜舎では、換気や遮光・遮断材の設置など、温度上昇を防ぐ対策をしましょう。
■文明の利器で熱中症対策!
農作業中は炎天下での労働が続くため熱中症のリスクが高まります。だからこそ、健康を守るためにさまざまな熱中症対策グッズが出ています。
服装では以下のものを取り入れてみましょう。
・帽子は、大きなつばの帽子をかぶる
日差しを遮ることはとても大切です。実際、日陰と日向では5℃~10℃もの温度差があります。保冷材や氷、水を使用して頭部を冷やしつつ日差しから守る商品もあります。
・メッシュ素材など通気性のよいものを着る
わき下など、汗がたまりやすく熱がこもりやすい部分にメッシュ素材が使われている商品を選ぶと、汚れやケガを防ぎながら快適に使用できます。
・空調服を取り入れてみる
作業服には、ファンが内蔵されたジャケットやベストなどがあります。これを着ると、体を冷やして、熱を効果的に逃がすことができます。また、直射日光による体温上昇を防ぐための特殊な生地が使われた商品もあります。
農作業の環境下でも、工夫できることがあります。
・空調・換気設備を導入する
ヒートポンプエアコンは、夏にはミストシャワーを使って気化熱でハウスを涼しく保ちます。冬には、ヒートポンプを使って暖房設備がビニールハウス内の温度を快適に保ちます。また、天窓換気や妻面換気扇、サイド巻上換気装置、循環扇などを利用し、ハウス内の熱を外に排出します。
・ミストサウナー
ミストシャワーは、水を霧状に噴射し、気化熱の力で空気を冷やす装置の一つです。ある機種では、誰でもカンタンにノズルを柱やビニールハウスのパイプに接続するチューブを設置し、本体に接続することもできます。水道に直接取り付けるか、タンクから水を供給し、電源を入れるだけで使用できます。
このように、農業をする時には、作業環境を整えてリスクを避けるためにコストがかかりますが、健康被害を防ぐためにも、検討する価値はあるでしょう。
■熱中症も体調の自己判断もあまく見てはいけない!
熱中症は誰にでも起こりうる問題であり、体調管理がとても大切です。良い睡眠とバランスのとれた食事を心がけることで、農作業中の熱中症リスクを減らせます。体調を整え、適切な服装をし、水分をこまめに補給し、定期的に休憩を取りましょう。暑い時間帯は屋外での作業を避けることも大切です。熱中症に気をつけながら、よい農業ライフを!
<参考資料>
声かけプロジェクト×環境省 令和元年度「熱中症対策BOOK」熱中症予防
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/attach/pdf/nechu-44.pdf
農林水産省「熱中症対策パンフレット」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/attach/pdf/nechu-25.pdf
農林水産省 令和3年度「農作業中の熱中症対策チェックシート」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/attach/pdf/nechu-43.pdf
農作業安全&熱中症対策ステッカー
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/sutekka.html