厚生労働省より最低賃金の引上げに関する発表がありました。全国平均で約1,055円に引き上げられ、大阪府は2024年(令和6年)10月1日を発効年月日として掲載されました。大阪府の最低賃金は関西エリアで最も高く、1,114円で前回から4.7%の上昇となりました。
ほぼ全ての事業従事者に影響を及ぼすこの最低賃金の引き上げについて、農業従事者としてどのような対策が必要であるかを本記事にてまとめていきます。
■最低賃金の引き上げによる農家さんへの影響とは?
最低賃金の引き上げは、農家の皆さまにとって大きな課題となる可能性があります。その影響は主に人件費の増加、労働時間の見直し、そして生産コストへの影響という3つの側面から考える必要があります。
1.人件費の増加に伴う影響とは?
まず、人件費の増加に伴う影響について考えてみましょう。単純に人件費が増加することにより、利益率が圧迫される可能性が出てきます。これに伴い、事業主としてはコスト削減策を講じる必要が生じ、従業員数の調整や業務の外注化などの対策を考えなければならなくなるかもしれません。さらに、新規採用枠を抑えるか、非正規雇用を増やすなどの対応を迫られる可能性もあり、結果として雇用市場全体で不安定さが増す懸念もあります。
2.労働時間の見直しについて
次に、労働時間の見直しについて見ていきましょう。これは主に家庭と両立しながら勤務される方に関わる問題です。例えば、103万円以内での勤務を希望されている方の場合、時給1,064円での年間勤務時間は968時間でした。しかし、今回の時給1,114円の場合は924時間と算出できます。つまり、年間では44時間の差分が生まれ、月あたりにすると約3.67時間の労働時間削減が必要となります。週単位で見ると約0.85時間(51分)となるため、週のどこかで30分~1時間の調整をするなどの工夫が必要になってくるでしょう。1時間の残業でも年単位で見た場合の重みが変わるため、年度の終わりでかなりの調整が必要になる場合もあるかもしれません。
3.生産コストへの影響とは?
最後に、生産コストへの影響について考えてみましょう。利益率を考えてコスト削減策を取らずに現状維持をしていきたいと考える場合には、価格転嫁が選択肢として浮上します。しかし、お米やお野菜なども生活必需品と言えるため、価格上昇は消費者に直接的な影響を与えることになります。他の対策としては生産コスト自体の見直しを図り、生産性を高める動きが考えられます。ただし、自動化や新技術の導入などは事業主にとっては重たい選択となる可能性が高く、慎重な検討が必要でしょう。
このように、最低賃金の引き上げは農家の皆さまにとって多面的な影響をもたらす可能性があります。次章では、これらの課題に対してどのような対策を講じることができるか、具体的に見ていきたいと思います。
■最低賃金引上げに対する対策や対応方法について
最低賃金の引き上げに直面する農家の皆さまにとって、様々な対策や対応方法が考えられます。身近ですぐに実践できる対策としては業務効率の改善が挙げられますが、その他にも助成金や支援制度の活用、短期労働者の活用なども有効な選択肢となるでしょう。さらに、農業経営の多角化として6次産業化やIoTなどのテクノロジーを活用した施策も候補として浮上します。今後も最低賃金の増加は継続すると予想されるため、引き上げを想定した長期的な視点での対策が重要になってきます。
1.業務効率の改善とは?
まず、業務効率の改善について考えてみましょう。これはコストをかけずに行える対策として非常に有効です。日々の業務内容を見直し、効率化できるポイントを見つけることから始めます。普段当たり前のように行っている作業を細分化し、無駄な箇所があれば省いたり、効率よく作業を行っている従業員の動きをマニュアル化したりすることで、全体の生産性を向上させることができます。最近のスマートフォンは非常に高性能なため、作業の様子を動画で撮影し、全員でその動きを確認しながら学ぶという方法も効果的です。これならマニュアル作成の時間も短縮でき、視覚的に理解しやすいという利点もあります。
2.助成金や支援制度の活用
次に、助成金や支援制度の活用も検討に値します。確かに、申請や審査、途中経過報告など事業主の負担は避けられませんが、活用できる支援施策はいくつか存在します。代表的なものとして「両立支援等助成金」や「キャリアアップ助成金」などが挙げられます。また、「大阪府雇用促進支援金」のように、都道府県単位や市区町村単位で独自の助成金や支援制度を展開しているケースもあります。これらの情報は変更が頻繁にあるため、最新の情報を得るには最寄りの市役所や商工会議所などに相談されることをお勧めします。
※「大阪府雇用促進支援金」は令和5年1月31日で終了しています。
3.パート雇用や短期労働者の活用
そして、パート雇用や短期労働者の活用についても触れておきましょう。多くの事業主は、8時間勤務に加えて残業もこなせる人材を求める傾向にあります。シフト編成が容易になり、幅広い業務や責任範囲に対応してくれることから、指揮命令を行う時間が短縮されるなど、事業主側にとってのメリットは大きいです。しかし、そのような人材の採用は難しく、通年で採用活動を行う必要があるのが現状です。そこで、パート雇用者や短期間で集中的に勤務できる方を確保するなどの施策を考えることも一案です。こうした柔軟な雇用形態は、雇用される側のニーズにも合致しやすく、結果として事業運営の観点からも効率的になる可能性があります。
これらの対策を組み合わせることで、最低賃金引上げの影響を緩和し、持続可能な農業経営を実現することができるでしょう。次章では、対策を実際に導入する際の具体的なステップや注意点について詳しく見ていきたいと思います。
■まとめ
最低賃金の引き上げは、農家の皆さまにとって大きな転換点となる可能性を秘めています。これまで見てきたように、人件費の増加、労働時間の見直し、生産コストへの影響など、様々な側面で経営に影響を及ぼすことが予想されます。しかし、この変化を単なる負担増と捉えるのではなく、経営改善の好機と捉えることも可能です。
業務効率の改善、助成金や支援制度の活用、雇用形態の見直しなど、様々な対策を講じることで、この変化に適応し、さらには競争力を高める機会となり得るのです。特に、業務プロセスの見直しや効率化は、長期的に見て経営基盤の強化につながる重要な取り組みと言えるでしょう。
ここで忘れてはならないのが、新しい最低賃金に基づく具体的な対応です。新しい賃金での給与計算はもちろんのこと、労働契約書の見直しも必要となります。また、最低賃金の引上げに伴い、残業代や深夜手当の計算基準も変更となるため、これらの見直しも重要です。これらの事務的な作業は煩雑に感じられるかもしれませんが、従業員との信頼関係を維持し、法令順守を徹底する上で欠かせない作業です。
最低賃金の引き上げは確かに課題をもたらしますが、同時に農業経営を見直し、改善する絶好の機会でもあるのです。この機会を活かし、より強固で持続可能な農業経営を実現することが、今後の農業界全体の発展にもつながるでしょう。
農家の皆さまには、この変化を前向きに捉え、自身の経営状況に合わせた最適な対策を講じていただくことをお勧めします。そして、必要に応じて専門家や同業者の方々と相談し、情報交換を行うことも有効です。共に知恵を絞り、この変化を乗り越えていくことで、農業の新たな可能性が見えてくるかもしれません。