ご結婚おめでとうございます。JR阪和線長滝駅前に到着して、真っ先に声を掛けた相手は、新婚ホヤホヤの生産者、角谷裕生さん(38)。先月に結婚式を挙げたばかり。妻の紗織さんと揃って出迎えてくれた。
ふたりの馴れ初めは後ほどゆっくり。まずは、大阪を代表する野菜「泉州キャベツ」を紹介したい。
大阪人が愛する、松波キャベツ
ここ泉佐野市の長滝を含む泉州地域は、冬に収穫できる「寒玉キャベツ」の生産地。1950年代に本格的な栽培普及がはじまり、泉州キャベツとして全国的に有名になった。
あまり知られていないが、品種はさまざま。10月下旬収穫の「しぶき」を皮切りに、12月初旬から「松波」「冬藍」、年を明けて「彩音」「冬のぼり」、春収穫の「YR春空」と品種のリレーが続く。最も人気が高いのは「松波」という主力品種。他の品種よりも、幅広く印字された出荷箱の文字がその証拠。
松波は、大阪名物「お好み焼き」にもってこい。加熱すると芯まで柔らかく、甘みが増す特徴がある。裕生さんの好きな食べ方もやっぱりお好み焼きだが、すき焼き風にお肉と甘辛く炊いてもご飯が進むという。生でも、バリバリいける。そう、「串カツ」にも最高に合う。
ぼちぼち、無理せず。真剣に
裕生さんは角谷農園の4代目。3人兄弟の長男として生まれた。2012年には32歳の若さで、若手生産者グループ「大阪府4Hクラブ連絡協議会」会長、2013年には「泉佐野市4Hクラブ」会長を歴任した。
てっきり固い決意を持って家業を継いだのかと思いきや、照れながら訂正した。「真面目だとよく言われるんですが、そんなこと全然ないんですよ」。
「継いで欲しい」という父の素振りは微塵も感じることなく育った。農業を継ぐつもりはなく、大学に進学するも、「勉強があんまり楽しくなくて。なんとなくの流れで」今日に至る。代々続く農園の継承は、ずいぶんゆるりとしたものであった。
いま、「どんどん地域を盛り上げていきたい」と語る眼差しは真剣そのもの。
2012年には、泉佐野市の蔵元「北庄司酒造」や近隣の生産者と協力して、「泉佐野酒蔵BBQプロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトは大阪府唯一のブランド豚、犬鳴ポークと泉州産食材、日本酒が楽しめる人気イベントになり、そこで野菜担当として実行委員を務めている。
「ぼちぼち、無理せずやってます」。にこやかな笑顔と肩肘張らない人柄に、周りからの信頼が集まるのだろうと感じた。
嘘はつかない。正直な農業をする
角谷農園では冬場の泉州キャベツをメインに、夏は枝豆、トウモロコシなどを生産している。都市農業は、消費地に近いというメリットがある。裕生さんも「有難いことに、販路には恵まれていますね」と話す。お客さんに嘘をつかない誠実な姿勢を昔から大切にしている。
生育具合が良くないときは、思い切って「出荷しない」決断をする。直売所に出荷が必要な際も、良くない理由をきちんと明記。適正な価格で販売する。「農業は信頼の積み重ね。自分が納得できないというよりは、お客さんに嘘をつきたくないんです。当たり前ですけどね。いつも正直で居たいと思っているんです」。
12月の泉佐野市農業祭では、キャベツが「大阪府知事賞」を受賞した。「人生初の受賞で緊張してしまって。当日のことは、よく覚えていないんですよ」と笑う。飾らない返答も裕生さんらしい。どこまでも正直でまっすぐ。「角谷さんの野菜なら、間違いない」と、直売所に常連さんが多いのも納得できる。