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畑ナシ、農具ナシ。専業農家で、どこまでいけるか。

永吉智宏さん

( ながよしともひろ / 永吉農園 )

  • 泉北
  • JA堺市
  • 大阪ねぎ
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人生の岐路に、高校の親友

「ほんまに取材対象、僕でええんですか? たいしたこと何にもしてないんですけど(笑)」そんな第一声から始まった。永吉智宏(ながよしともひろ)さんは、友達や仲間から「えいちゃん」と親しみをこめて呼ばれる43歳。7年前に新規就農し、青ネギ、ブロッコリー、コマツナなどを生産する専業農家である。

堺市出身の永吉さんには、小さい頃、近所の田んぼでよく遊んでいた記憶があるが、実家は非農家。前職は、トラックやトレーラーのドライバーをしていた。そんな永吉さんを専業農家の道へ導いたのは高校時代の親友、藤岡慎吾さんだった。

「彼が大学院を卒業した後、専業農家になったんです。なんで農家になったんやろ? 専業農家で食べていけるのかな? と、不思議に思いました。彼のところに遊びに行って、ほんの少しだけ農業を手伝ってみたんです。そしたらね、結構、面白かったんですよ」という流れで、農業と出合う。

堺で、米農家へ弟子入り

結婚後しばらくは松原市に住んでいたが「いわゆる性格の不一致等」で人生の岐路に立つ。堺市に戻り、同時に転職を決意。藤岡さんの紹介があり、堺市金岡で米をつくる篤農家のもと1年間、研修をさせてもらうことになった。

「トラクターやコンバインなどの農業機械に乗れるのが楽しく、いろいろな意味で目からウロコでした。農業は儲からへんというイメージがあったのですが、やりかた次第では、ちゃんと仕事として収入を得られるということも教えていただいたんです」。

米農家での研修を活かそうと思ったものの、稲作に必要なトラクターやコンバイン、その他の農業機械、水利権等を考えると、初期投資のハードルの高さに驚愕して、断念した。「米づくりで使う農業機械ってたくさん必要ですし、めちゃくちゃ高いんですよ。これじゃあ、米農家にはなれないなぁと思いました。でもせっかくこの業界に足を踏み入れたので、どうしたものかと模索していたんです」。

出会い、有り難い、ラッキー三昧

そんな折、またタイミングよく、藤岡さんから打診があった。「親戚が使っていない20アールの畑を借りてやってみないか」と。もちろん迷わず、即契約。「畑で農業をやりたいと思っていた矢先でしたので、とても有り難いお話でした」。季節は冬だった。

露地栽培で育ち、鍋で食べられる冬野菜として、まずはキャベツとハクサイを植えてみた。農業に関する専門知識を学んだこともなく、農機具もまったく持っていなかった永吉さんをサポートしてくれたのは、藤岡さんをはじめ、誘われるがままに入会した堺市4Hクラブ*で出会った仲間たちだった。

*4Hクラブとは、農業の改良、改善をめざして活動する青年組織。4Hは腕(Hand)、頭(Head)、心(Heart)、健康(Health)の頭文字。

「堺市4Hクラブには、なぜか昭和50年生まれの同年代の仲間が5人もいたんです。みんな農機具は貸してくれるし、栽培方法も教えてくれる。4Hクラブは、本当に有り難い仲間との出会いをくれました」。

就農したての頃は、トレーラーのドライバーやJAの育苗センターでアルバイトをしながらしのぐという時期もあったが、青年就農給付金(現在の「農業次世代人材投資資金」)の制度に応募し、見事、合格した。「向こう5年間の作付計画をたてたり作業日誌をつけたりと、初めてで大変なこともありましたが、農機具を購入することもできましたし、有り難い限りでした」。

初めての、ネギ栽培

現在、永吉さんが耕す畑はすべて借地で、自宅から車で約20分のところ3箇所にそれぞれ分散している。そのなかの一つ、仲間4人と共同で借りたビニールハウスは、2018年の台風21号で、7棟中4棟が倒壊するという惨事に見舞われた。

「めちゃくちゃショックでした。今もまだ片付けが終わっていない状況です。なんとか3棟が残りました。そのうちの1棟で、この冬は僕が青ネギを植えさせてもらったんです」。

ハウスでは、ちょうど収穫期を迎えた美味しそうな青ネギが育っていた。株元に見えている紙は、チェーンポットの端っこ。数珠(チェーン)状に連結した紙製の鉢だ。「ひっぱりくん」という専用の機械に装着してひくと、簡単に定植することができる。

「これ、ラクちんなんです。ピューっとひっぱるだけで、定植があっという間に終わるんですよ。もし一人で、手作業で定植してたら、たぶん3日はかかると思います」。

チェーンポットは生分解性。土の中の微生物によって自然分解される(はず)。「でもね、なぜかあまり分解されなくて、野菜をつくればつくるほど、ハウスが紙だらけになっちゃうんです。どないしたらええんですかねぇ、ほら、紙だらけでしょ(笑)」。

こちらも思わず吹きだしてしまった。どう表現したらよいのだろう、永吉さんというキャラクター独特の魅力と面白さ。紙だらけになっちゃう問題克服については、今後の土づくりと微生物の頑張りに期待したい。

倒壊したハウスの片付けを一緒にされていた仲間に、永吉さんの印象を尋ねてみた。「明るく、元気な頑張り屋さんです。いろいろと相談してくれるので、ついこちらも応援したくなってしまうんですよね」と、みなさん笑顔でこたえてくれた。

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