初めての人、忙しい人の、体験農園
「くずはシティファーム」は枚方市の市街地にある。ちょっと立ち寄って野菜づくりができる、街中の手軽な体験農園だ。一般的な市民農園では利用者が農地を借り、野菜栽培を楽しむ。くずはシティファームの特徴は、初めて野菜栽培をする人や、忙しくて週に一度しか畑に行けない人でも気軽に利用できること。農作業に必要な道具は揃っているので、好きな時に訪れ、手ぶらで収穫に行ける。
畑はハコハタ、2平方メートル
畑は2平方メートル、4平方メートル、2つのサイズがある。普通の市民農園に比べるとスペースはかなり小さい。畑を木枠で囲う「ハコハタ」という栽培方式。畝づくりが不要な分、「ハコハタ」内にはめいっぱい好きな野菜を作ることができる。週末にはアドバイザーが常駐し、わからないことがあれば教えてもらえる。初心者でも安心。無農薬、無化学肥料で育てる体験農園だ。
園主は米、サラリーマンの兼業農家
くずはシティファーム代表の篠原弘徳さん(34)は、サラリーマンをしながら米を育てている兼業農家である。曾祖父は、米屋をしながら農家をしていたそうだ。枚方の、田んぼのある風景の中で育った弘徳さんが、体験農園をスタートさせたのは、ある強い思いがあってのことだ。
田園風景を取り戻したんねん、15歳の誓い
「小学校の時は、部活とかであまり家のことに興味がなかったんです。中学生になって、ふらっと畑に行ってみると景色が変わっていたんです」。子どもの頃に遊んだ田んぼや畑は、すっかり様変わりしていた。
「田んぼがいっぱいあった場所が、コンクリートだらけになっている。これは、あかんと思いました」。ショックを受けた15歳の篠原少年は、カメラで枚方の風景を撮り続けた。そして、心に誓った。「僕が土地を買い占めて、絶対、田園風景を取り戻したんねん」。このときの決意が、今につながっているという。
農園は、個性あふれるマイ畑
体験農園のある場所は、枚方市招提元町(しょうだいもとまち)の元田んぼだった場所だ。弘徳さんは語る。「僕はここで畑を楽しんでもらい、農園風景を満喫してもらいたいんです」。
体験農園では、指導はするが強制はしない。作物の育て方を少々間違えても、楽しんでもらえばいいという考えで接している。枝豆が主体で、ビールのアテになるものばかり植えているお父さんの畑。なすび、キュウリと食卓で活躍しそうな野菜を植えているお母さんの畑。トウモロコシもあれば、ミニトマトもある。
植え方も種類も様々で個性的だ。少々、育ちすぎているズッキーニがあったので「これ、早く収穫しないとダメにならないですか」とたずねると「収穫してあげてもいいんですが、こんなに育ちすぎてしまった、ワッハッハで、いいんじゃないかと思っているんです」と弘徳さん。
研究を辞め、サラリーマンへ、体験農園へ
「土地を買い占めて田園風景を取り戻す」と誓った15歳の篠原少年は、大学で農業工学を学び、大学院では農業ロボットの研究に取り組んだ。三次元でイチゴを検出する収穫ロボット開発では、株処理/摘む/検証/摘む/検証を繰り返した。そんな研究生活のある日、弘徳さんはふと思った。
「農業ロボットは壊れたらメンテナンスに高額な費用がかかる。メンテナンスを考えたら経済的に見合わない。農家に、ほんまに農業ロボットは必要なのか、普及するのか」。今から10年前のことである。
農業ロボットは、メンテナンス費用を考えると割が合わない。経済的に見合わないものは、使ってもらえない。との結論に至った弘徳さんは、農業ロボットを研究開発する大学院を辞め、サラリーマンの道へ進んだ。
しかし、15歳のときの夢はあきらめていなかった。サラリーマンを続けながら、株式会社マイファームが運営するマイファームアカデミー(週末農業ビジネススクール・アグリイノベーション大学校の前身)へ通い始める。ここで農業技術、農業の効率化、有機農業を学んだ。
2014年、体験農園くずはシティファームをオープンした。農園風景を守り、未来へ伝えていきたいという思いから始めた体験農園だ。