今年のために、去年がある
都市で農家を続けていくためには、少しでも労力を減らし、手がかからないようにする必要がある。進さんは、そのために「逆算」する農業を思考する。「田んぼは、逆算して考える。つまり今年のために、去年の農作業がある」。
収穫するときにどういう状態になっているか、そこから逆算して苗を植えていく。植えられる限界まで苗を植えると、収穫量は多くなると考えがちだが、かえって刈り取り作業が大変になることがあるという。
多少広めの間隔で苗を植えても米の収穫量は変わらないし、粒の大きさも変わらないそうだ。進さんたちは効率よく農作業ができるように常に逆算して考える。現在5反ある田んぼのうち1.5反は近所のパン屋さんに貸している。無農薬でするから協力してほしいと頼まれたのだ。畝立てから苗の植え方まで、基本を指導し、代掻きを手伝っているそうだ。
田んぼも生徒も、父からの財産
進さんは大学時代、農学部で農業経営を学んでいた。卒業後は、5年間、サラリーマンを経験した。「田んぼはしんどいし、近所付き合いもしんどいというのが根底にあったんです」。
サラリーマン5年めのこと。先祖代々受け継いだ農地を守っていくのが自分の使命であると覚悟を決めた。そして農業、不動産、空手を受け継いだ。「農地も空手の生徒も親父から受け継いだ財産です。守るには覚悟がいる」と進さん。
農地に立つ納屋には、牛を引いて田んぼを耕していたころの道具や歴史を感じさせる古い通い帳(掛け買いの帳簿)も残っているそうだ。田んぼは進さんに任せているという父、正一さんに信条をうかがうと「喜んで生きさせてもろてる。これですわ」と笑った。
取材日 2019/6/15
記 事 湯川真理子
写 真 田村和成
- 氏名 / ふりがな
- 東口正一さん・進 / ひがしぐちまさかず・すすむ
- 生年
- 正一さん 1946年生まれ / 進さん 1970年生まれ
- 前職 / 出身校
- 進さん 大阪府立大学大学院 農学研究科博士前期課程修了
- 組織名
- 兼業農家
- 従業員
- 2人(正一さん、進さん)
- 主な生産作物
- 米
- 特徴
- 兼業農家。親子とも空手の師範で地域の子供たちに無料で指導
- 理念
- 喜んで生きさせてもらっている
- JAエリア
- JAいずみの
兼業農家
大阪府高石市取石