古来より農耕が盛んだった松原市
土地がほとんど平坦であり、気候も温和な松原市は、古来より農耕が盛んで数多くの古墳や遺跡が見られるところ。松原市で代々農業を営む出口和晃さん(35歳)を訪ねた。いただいた名刺には、ドレッドヘアの和晃さんの似顔絵がついている。
「レゲエミュージックが好きなんです。今日は取材なので普段よりも地味にしました」。お見かけしたところ、十分にファンキーでインパクトのある雰囲気である。
「農業は僕の性に合っていると思うんです。晴れたら仕事、雨なら休み、携帯いじりながら、ヘッドホンで音楽聴きながらでも作業できますしね。でも大変な時やストレスがたまる事もあるんで、そんな時の楽しみはスイーツです(笑)」。
外国の野菜に興味。旅するファーマー
帽子を目深にかぶり、黒縁メガネに顎髭と頬髭。一見、強面(こわもて)であるが、目は優しく、語り口も温厚である。
本サイト・「やるやん大阪農業」に既出の河内長野の中谷仁大さんとバリ島へのんびり2人旅をしたり、一緒に韓国の4Hクラブの仲間と交流しに行ったりしたこともあるという。
この9月にはニューヨーク、冬には台湾に行く予定とのこと。今回の取材を通して、和晃さんは「単に旅行が好き」ということだけではなく、外国の畑や野菜に興味をもっていて、韓国や台湾など、海外の4Hクラブの仲間との交流を大切にしていることのこと。
メキシコやジャマイカのチリ(トウガラシ)を使ってはどうかと飲食店に提案して、栽培、提供するなど、旅で得た知識や情報を農業経営に活かしている。
「儲かる」農家を目指して
和晃さんが農業を継いだきっかけをきいてみた。「儲かると思ったからです(笑)。農業を手伝ったら親がお小遣いをくれて。その時に、農地面積から何がどれだけ収穫できて、いくらで販売できるかをシミュレーションしてみたんですよ。そしたら結構儲かるという試算結果がでたんです」。
現在、シティファームデグチでは、合計約4ヘクタールの農地で、枝豆、春キャベツ、レンコン、マコモダケ、難波ネギ、ブロッコリー、ニンジン、ミニトマト、ホウレンソウ、米などを栽培している。出荷先は卸売市場、直売所、スーパーマーケット、八百屋や飲食店など。給食用に出荷したり、4Hクラブでの軽トラ市で販売したりすることもある。
「儲かる農業……素晴らしいですね」と言うと、「あ、いえ、それは幻でした(苦笑)」と即答。和晃さん、面白い。そのあと真剣な眼差しでつぶやいた。「でも、うまくやれば農業は儲かるんじゃないかと今でも思っています」。
消費地との近さがもたらすメリット・デメリット
ちょうど収穫時期を迎えた枝豆の畑へ。松原市は八尾市・泉佐野市に続く大阪府下第三位の枝豆の産地である。シティファームデグチでは、農薬や化学肥料は極力使用せず、土づくりには魚粉を活用し、大阪府のエコ農産物の認定を取得している。
松原市で生産される大阪エコ農産物は、「まったら愛っ娘~松原育ち」という松原市独自のブランド農産物となる。「まったら」とは、河内地方で古くから使われている方言で「松原」がなまったもの。野菜袋には、松原市のゆるキャラ「マッキー(松とバラの間の妖精)」の可愛いイラストがついている。
「ここ、三宅地区は農業がしやすいんです。区画整理も済んでいますし、ため池もあり、水の管理も容易。有り難いことです」と祖先への感謝の気持ちも忘れない和晃さん。
そんな和晃さんを困らせている人がいる。都市化がすすみ、高速道路や幹線道路がすぐ近くを走る松原市では「獣害」はない。しかし、心ない人によるゴミの不法投棄や農産物の盗難といった「人害」があるという。悲しくもあり、腹立たしいことである。
和晃さんは、最近、レンコンとマコモダケの栽培を新たに始めた。マコモダケは飲食店からの依頼で植え始めた。マコモは日本にも古くからあるイネ科マコモ属の多年草。その一部に黒穂菌という共生菌が作用して、芽が大きく膨らんだところがマコモタケとして食用になり、葉はマコモ茶にして飲むこともできる。
「栽培方法は仲間や友人に相談しながら試行錯誤してやっています。レンコンとマコモダケの畑は、家族の誰からも口出しされないストレスフリーなエリアですね(笑)」。