「祭りが始まる前に(取材を)やりましょう。」
取材日を、地元のだんじり祭りの日程を考慮して決めたのは、和泉市久井町の辻井義隆さん。江戸時代から続く果樹農家の7代目だ。「つじい農園」のコンテナには、屋号の「半与茂」の「半」のマークがついている。
義隆さんの代から「つじい農園」を名乗り、一新したロゴには、「辻井」という漢字をモチーフにしたものに、「半」の文字が組み込まれている。先祖から受け継いだものを大切にしつつ、革新を起こす義隆さんらしいデザインだ。
「みかんの産地」で「みかんをつくらない」という選択
和泉市の南部地域は、穏やかな気候風土と清く豊かな水に恵まれた大阪府下最大の温州みかんの栽培地である。東京で映像編集や営業の仕事をしていた義隆さん。30歳でUターンし、就農したての頃は、両親と共に柿やみかんを栽培して、卸売市場に出荷していた。卸売市場出荷は、全量出荷や迅速に代金決済ができるなどのメリットがある一方、自分では価格決定ができないというデメリットもある。
営業畑から転身した義隆さんのイノベータ―(革新者)魂に火がついた。「近くに消費者がいる好立地にいながら、卸売市場だのみだなんて。」そこで、一念発起して柿園の一角に連棟のビニールハウスを建設。粘土質だった土壌に砂や堆肥を投入し、野菜栽培に適した土に仕上げた。
「周りで栽培されていないものをつくろうと思ったんです。」
義隆さんがセレクトした主力の農産物は、パプリカや茎ブロッコリー、ハウス栽培だからできる「早出しオクラ」など、さまざまな季節野菜。果樹生産だけでは不可能だった周年出荷ができるようにした。飲食店への直接販売と、自分で値付けができる直売所に出荷している。営業職で培ってきた経営戦略のスキルが光る。
五感で楽しむ「和泉の太陽*パプリカ」
ハウスに入ると、大きくて真っ赤なパプリカが視界に飛び込んできた。「肉厚の品種なんですよ。樹熟(きじゅく)させています。」「樹熟」とは、太陽の光をたっぷり浴び、土の中の栄養分をぐんぐん吸わせて、完熟するまでゆっくり育てることである。市場に出回るパプリカは、未熟な段階で収穫し、追熟させたものが多いのが現状だ。
樹熟させた義隆さんのパプリカは、元気あふれる艶々な見た目、かじったときの爽快音、フレッシュな香り、ジューシーな歯ごたえ、甘味やうま味がのっていて、五感をくすぐる美味しさがある。