堺生まれの堺育ち。「これからもずっと堺で暮らしたい」そう話すのは上田裕貴さん(32)。2018年から青年農業グループ「堺4Hクラブ」の会長を務める。堺を愛する若手生産者のひとりだ。
祖父の農法を守り継ぐ
父が多種品目の季節野菜を栽培。裕貴さんはニンジン、大根、タマネギなどの根菜を担当している。
「品目は、大体そんな感じかな。はじめて考えるわぁ」と返答は終始大らか。しかし新婚の妻曰く、性格は「真面目で、几帳面」。
「昔から除草剤は使わず、雑草はすべて手で抜いてます。なかなか根気が必要やけどね」。にっこりと話す。祖父の代からの教え「常に畑は綺麗にせえ」を忠実に守っているという。
3年前、兄が近所に「農家の直売所SAKAI」をオープン。規格外の野菜などを販売。家族連携して農業を守り継いでいる。
造成された砂地を生かした根菜作り
そばを走るのは阪神高速湾岸線。神戸から大阪、関西国際空港へ、大阪ベイエリアを一気に繋ぐ。畑は三宝(さんぼう)ICを降りてすぐ。
堺市三宝地区は埋立地として造成された。1960年代に堺泉北臨海工業地帯として発展。今も沿岸部には工場が立ち並び、農業のイメージは少ない。地域の農家はたった4軒だ。
「この地区の土壌は根菜にぴったり」と、畑の土を手ですくって見せてくれた。まるで海の砂のよう。埋立てた際の砂地だという。「サラサラした砂地は、根菜の肌を傷つけず綺麗に育つ。粒子が大きいので、まっすぐ伸びてくれます」。
収穫したニンジンの多くは、堺市内の学校給食に出荷。地産地消を推奨するブランド、堺産農産物「堺のめぐみ」認定も受けている。
生産者仲間も驚く、甘さの秘密
裕貴さんの根菜は近隣農家よりも甘みが強い。それに気付いたのは4年前。規格外の大根を生産者仲間にお裾分けしたところ、「何でこんなに甘いの?」と驚かれた。
「当時は理由が分からなくて。色々と調べてもらったら、うちの畑にだけ地下水に0.03%の海水が含まれてることが判ったんです」。海水のミネラルが作用し、大根やニンジンを一層甘くするという。
ニンジンは、「やるやん!大阪農業」で紹介した堺市北区の芝尾農園直売所でも人気。「いつ持って来てくれるんや? お客さん待ってるで」。つい昨日も芝尾さんから催促の連絡があったと笑う。味に厳しい生産者の舌を唸らせている。