酒造りは地域づくりである
この米から酒への一貫造りに魅力を感じた若者達が、秋鹿酒造で働きたいと全国からやってくる。「集まってくるのは、変わったやつばっかりですよ」と笑う航太朗さん。目を輝かせた若者たちの苗づくり、田植えが秋鹿の酒造りのスタート地点であった。
秋鹿酒造では航太朗さんの代に、醸造米の7割程度を自社田で生産することを目標としている。これは事業拡大への意欲というだけではなく、人口減少や高齢化が急速に進む能勢町において、秋鹿酒造や航太朗さんが新たな農業の担い手として大きな期待を受けているということでもある。
「機械化や効率化も図りながら、他所の良いところはどんどん取り入れていきますよ!」。農業と酒造業の両立は並々ならぬことであるが、明るく答えてくれる航太朗さんは全くもって頼もしい限りだ。
米収穫後は、いよいよ酒造りがはじまる。冬の季節労働的なイメージが強い酒造りであるが、秋鹿酒造では春夏秋冬オフシーズンがない。
しかし、隙間を狙って航太朗さんは修業に出たこともあるという。神奈川県の大矢孝酒造。当時の杜氏、菊池さんはいまでも良き先輩であり、良き相談相手である。
いま航太朗さんは秋鹿酒造の酒母担当だ。酒造りで「一麹、二酛(酒母)、三造り」という重要な工程の一つを任されている。こちらも重要な仕事だ。
秋鹿酒造では醸造用アルコールを一切使用せず、米と麹のみでお酒を造っている。つまり純米酒、純米吟醸、純米大吟醸といったカテゴリーに当てはまるものだけ。
「うちは酒に米の旨みを溶かしていくんです。えぐみがなく個性はあるけど食事にあう。そんな食中酒を心がけています」この言葉を聞いて、うまい「大阪もん」の山海の幸と秋鹿で一杯やりたくなるのは筆者だけではないだろう。
秋鹿の酒を呑むことは能勢の農業を守ることにもつながる。この物語も秋鹿をさらに味わい深いものにする。この冬は秋鹿の酒で晩酌されることを是非おすすめしたい。
取材日 2019/6/14
記 事 福島征二
写 真 柴田久子